鶴岡の食文化を紡ぐ人々
No.011 〜油揚げ〜
東海林豆腐店 東海林隆子(しょうじたかこ)さん(下川地区)
油揚げと書きますが、「あぶらげ」と読みます。
数多くある豆腐屋の中で、今回は知人が大好きなお店に伺いました。

3月21日午後、春らしい陽気が続いた後、気まぐれの小雪がちらつく中、東海林隆子さんのお宅を訪れました。
東海林さんがご主人とともに営む豆腐店は、鶴岡の観光名所、善宝寺の門前のそばにあり、その歴史は古く創業100年以上になります。
歴代のお店の豆腐作りは女性の手で受け継がれ、東海林さんで4代目です。
手伝いから始めて、油揚げを揚げて19年、豆腐を作り始めて15年になります。
当初は豆腐店を継がなくてもいいということでお嫁入りされたそうですが・・・
東海林さんはおっしゃいます。
「毎日のように豆腐を食べて、自分でもおいしいと思うし、
店に来る人から「おいしい」と言われていると、なぐさね(お店を無くさない)方がいいと思った。」
一番人気は油揚げ

鶴岡では、全国的に厚揚げと呼ばれるものが「油揚げ」、油揚げと呼ばれるものが「皮揚げ(薄皮)」です。
東海林さんに尋ねてみましたが、なんでこの地域独特の名前になったかは分からないそうです。
お店の一番人気はやはり油揚げ。
人気の油揚げですが、創業当時は作っておらず、3代目にあたる東海林さんのお義母さんの代から作られるようになりました。
昔は集落の中に、いくつかの豆腐屋があり、また油揚げ屋という油揚げ専門のお店があったそうです。
けれど、今では集落で東海林さんのお店1軒だけになり、主に油揚げや豆腐をお店でも販売されていますが、大体、週2回集落の家々を巡って販売されています。

油揚げは、主役のお料理というより脇役のイメージが強いですが、ここ鶴岡では、名脇役を務めるとともに主役にもなりうるのです。
地元の人が大好きな孟宗汁の具材にもおいしい油揚げが欠かせません。また、秋の芋煮でも、大晦日に食べる煮しめにも、お正月の雑煮餅にも油揚げは必須の具材です。
そして、鶴岡では、寄合いでの酒の肴として愛されています。
パックに入れられた1枚の油揚げが、テーブルに並び、ネギと醤油、七味をかけてつまみとするそうです。
仕事を終えて、夕飯前の寄合にはぴったりの酒の肴だそうです。油揚げについて熱く語るのは、お酒好きの男性の方に多い気がします。
これがあればつまみは何もいらないとか、
酒に最高にあうとか、
想像以上に熱っぽい語りが始まります。

昔の寄合いの酒の肴は大きな油揚げ1枚でしたが、最近は他の料理があるため、2分の1サイズの注文が多くなったそうです。
こちらのお店では、年末が最も忙しく、次いで孟宗の時期、芋煮の季節、そして3月の寄合の時期に油揚げが多く売れるそうです。
また、農繁期のお昼ご飯としても利用されることが多いとか。手がかからず1品のおかずになるので忙しい農家の主婦の味方なのです。
油揚げができるまで

豆腐作りのすべては、お義母さんから教えてもらったそうです。
当初、板に挟んだ油揚げをひっくり返す時に、誤って豆腐を落としてしまったことも・・・。

ご一緒に作業されているご主人から、揚げたての油揚げを出していただきました。
香ばしい香りと中のなめらかでふわふわの豆腐がたまらないおいしさでした。
にがりと豆乳を合わせるとこが勝負どころ!
計量せず、勘と経験が頼りの作業は、同量のにがりを入れても、日によって同じように固まることはありません。温度や湿度によって変わっていきます。にがりを少なめに、柔らかい豆腐を目指す東海林さんは、特に夏場は固まりにくく、豆腐作りが難しいそうです。
ご苦労を伺うと、

何だろ?としばらく考えこまれ、
冬場は大変なのでは?と重ねてお尋ねすると
「んだの。冬は水が冷たくて、手にしもやけができる。
でも、一番大変なのは、夏に豆腐が固まらないこと!
にがりと豆乳を合わせるとこが勝負どころ。
だからこそ、うまくいないと面白くないのぅ。 」
明るく朗らかな東海林さんですが、この時、豆腐職人としての一面を見た気がしました。
油揚げ

鶴岡の人たちが愛してやまない油揚げ。
地域の集まりが多い3月には、ビニールパックに入った1枚の油揚げがテーブルに並びます。油揚げは「ざぶとん」と呼ばれることも。
酒の肴として、小腹を満たす食事の1品として、食べずにそのままお土産として、、、用途の多いお油揚げは、地域の集まりに欠かせない1品です。
収穫時期 |
販売時期:年中 |
買えるところ | 東海林豆腐店
鶴岡市内の各豆腐店でも販売されております。 |
おすすめの食べ方
鶴岡人が大好きなポピュラーな食べ方です。
